角川ビーンズ小説大賞 歴代新人賞受賞作品紹介

第15回角川ビーンズ小説大賞

先日発表いたしました第15回角川ビーンズ小説大賞受賞者2名の受賞のコメントと、審査員の先生による最終候補5作品の選評が届きました。
ご応募くださいました方々、選考にあたられた諸氏に改めて御礼申し上げます。

<優秀賞>及び<読者賞>

「レリン〜春待つ娘〜」 藤咲実佳(岡山県)

【あらすじ】
「……あなたには夢はあるか?」
商家の養女・レリン。彼女は裁縫に天賦の才能を持つも、その事で家族から妬まれ、辛く厳しい冬のような日々を送っていた。 ある日、転入生の少女と“一見”紳士な王国騎士団員・フォルスに出会う。2人は、事情があって学校に潜入していたようだが、レリンはその秘密を知ってしまう! そんな時、王女・ルディアが編入しているとの噂が流れてきて……!?
「私は、春を迎えたい──」縫い立つ力で、愛する人を守り抜く。王家一族に導かれ、夢追う少女・レリンの運命が今動き出す──!王道のシンデレラストーリー!

【受賞コメント】
このたびは優秀賞ならびに読者賞というすばらしい賞を、誠にありがとうございます。
審査員の由羅カイリ先生、編集部の皆様、読者審査員になってくださった皆様、応援してくださった方々に心から感謝いたします。私一人の力ではここまでたどり着くことはできませんでした。
今回の受賞は、まだ入り口に立っただけ。ここから、読者の方に「おもしろい」「この世界に行ってみたい」と思ってもらえるような作品作りにつとめていこうと思います。どうぞよろしくお願いします。

<優秀賞>

「千年の、或ル師弟」 守野伊音(高知県)

【あらすじ】
空に住む天界人と、地上に住む人間が争う世界。傲慢な天界人を“人間の王”が滅ぼし、戦争は終結する。それから千年。特殊な力ゆえに、千年を超えて生きる人間の王・ルタの前に、少女・アセビが現れる。 彼女は、ルタが殺した天界人──かつてのルタの師匠にして、愛した女性の生まれ変わりだった。アセビが生まれ変わりだと気づかず、周囲を拒絶し孤独なルタを見て、アセビは思う。「千年前も今も、私はただ、ルタに幸せになってほしいのに」 ──千年の、願いは届くのか。
愛しく切ない、転生ラブストーリー。

【受賞コメント】
審査員の由羅カイリ先生、読者審査員の皆様、編集部の皆様、並びに賞に携わられた全ての方々に厚く御礼申し上げます。
毎月、学校が終われば本屋さんに駆け込んで新刊をゲットし、わくわくしながら袋を開けていた子ども時代。 自分が与えて頂いた沢山の楽しい思い出を、今度は誰かにお返しできればいいなと思っております。精いっぱい努力し、精進して参ります。何卒、宜しくお願い申し上げます。

審査員選評

■由羅カイリ先生

【総評】
今回は候補作が5作ということで気合を入れて選考に臨みました。昨年と今年、2年間選考委員を務めさせていただき感じたのはいわゆる「少女小説のテンプレ、王道」という見えない壁のようなものが存在する…ということです。 少しばかり閉塞感を感じていたところに今回はなかなか新鮮な作品が現れました。少女小説というジャンルはまだまだ冒険できるところがいっぱいある、どんどん踏み出そう!というエールになるんじゃないでしょうか?

「レリン〜春待つ娘〜」

主人公の境遇と寒い季節、閉塞感のある全寮制の女学院。雁字搦めの重苦しい雰囲気に満ちていて読みながら息が詰まりそうでした。そして奥ゆかしい恋と友情…道徳や修身といった単語が似合うイメージの作品でした。 想い人や友人がどんなに彼女のことを思い、何をしたのかという物語の「結」に向けての描写がもっとあれば「春」のカタルシスが盛り上がったと思います。バタバタと物語がたたまれて単調で長いネタばらしとなるので読後感が残念。最後こそ急がず丁寧に描いてください。

「千年の、或ル師弟」

ひたすらモノローグで進む物語に最初は戸惑いますが作品の世界観に嵌まったら後はグイグイ引き込まれます。良い頃合いで視点を変えて飽きさせないあたりの構成がお見事。 一人称でありながら客観性のある視点で描かれるので凄惨な展開もそれほど気になりません。「空」の描写がとても良く広い世界観を感じました。それがとても気持ちが良い。 神話的で世界設定や生活感は薄いのですが登場人物はみな良い仕事をしています。何を楽しむかは読者次第で賛否両論のある作品かもしれませんが面白いです。

「鬼姫守護竜〜嘘からはじめる契約婚〜」

冒頭から中盤はオリジナリティ、世界観をリアルに感じさせる描写力もあり文章の流れもスムーズで素晴らしいのですが、途中から何故か歴史ゲームかアニメのノベライズのような展開になってしまいとても複雑な気持ちで読み終わりました。 筆力があるのにオリジナリティを感じることができず新人賞作品としては評価がしづらいのです。主人公はとても良く描けていると思います。でも少女小説的には鬼姫の他にもっとかわいい「真名」があると萌えますね。名前も作品を盛り上げる要素だと思うので。

「ものすごい子犬に懐かれました」

タイトルに期待したのですが、内容は定型少女小説でした。全体的に粗削りな印象の作品。シナリオのようにセリフだけで進んでいく場面が多く、登場人物の印象もみんなサバサバしています。 テンポが良くキャラクター描写も面白いのですが…全体的に色気がない? 主人公に魅力が感じられず、ヒーローは可愛らしい。もしかしたら少年主人公のほうが良く描けるタイプかも?

「夢渡りのシャラ」

世界観、舞台背景、展開と、設定の甘さからちぐはぐな印象を受けます。登場人物の感情の流れが唐突なのはプロットが練られていないのと描きたい場面優先だからだと思います。 登場人物に嫌な印象がなく雰囲気は良いのですが半面深みもないのでとことん煮詰めて自分の作品を組み立ててください。