角川ビーンズ小説大賞 歴代新人賞受賞作品紹介

第17回角川ビーンズ小説大賞

先日発表いたしました第17回角川ビーンズ小説大賞受賞者3名の受賞のコメントと、最終候補6作品の選評を公開いたします。
ご応募くださいました方々、選考にあたられた諸氏に改めて御礼申し上げます。

<優秀賞>

「円環の姫巫女は銀狼に抱かれる」 西嶋ひかり


【あらすじ】
森の奥深く、女人だけの宮には永遠の少女がいる――。十一代目・姫巫女として生をうけ百五十年、十五歳の少女として過ごしてきた真珠。姫巫女が命を失う手段はただ一つ。己の運命の相手“銀狼”を選ぶこと。ある日、真珠は自身が死ぬ夢をみる。翌日、宮を襲いに訪れたのは鬼若子の異名をもつ若き国主・透輝。二人はお互いの利益のため、婚姻を条件にある取引を行うが?「私は私以外には従わぬ」「お前やはり、俺のものになれ……俺を利用しろ。」
本能が、魂が、求め合う。刹那の和風ラブ・ファンタジー!

【受賞コメント】
この度は素晴らしい賞をいただき誠にありがとうございます。読者審査員のみなさま、編集部のみなさま、審査に関わってくださったすべてのみなさま、そして家族と友人たちに心より感謝いたします。
自分の好きなことを恥ずかしがらずに特盛りで書こう!と決めて書いた作品が評価いただけたことは身の震えるような喜びです。
これからは私の日常を彩ってくれた物語たちへ恩返しができるように一歩一歩精進致します。今後とも、どうぞよろしくお願い致します。

<奨励賞>&<読者賞>

「音風症候群」 石川ゐなほ


【あらすじ】
友達がいない陸(17歳)が唯一、大事にしているもの。それは死んだ祖父が教えてくれたベースだった。祖父の命日に夜中の墓地でベースを弾いている時、突然現れたハデな美男子にスタジオに拉致られ「セッションしよう!」と、笑顔で押し切られる緊急事態が発生! 彼――人気インディーズバンド“煉獄シンドローム”のボーカル・カズは「今、ベース募集中でさ。君、俺たちのライブに出てよ」というムチャぶりをしてきて!? 「俺、人が怖いコミュ障なんでムリなんですけど!?」
無自覚天然系凄腕ベーシストが巻き込まれる、暴走の青春バンドストーリー!!


【受賞コメント】
このたびは素晴らしい賞をいただき、驚きつつも本当に嬉しく思っております。
編集部の皆様、読者審査員の皆様、
そして、私を支えてくれた家族や友人達、すべての方々に感謝いたします。
夢を諦めたくなくて、書き続けていました。
と言えたら格好いいのですが、実際は夢を諦めることが怖かったのです。
でも、悪あがきを続けたからこそ、この作品に、彼らに出会えたのだと思います。
未熟な私ですが、少しでも皆様の心の潤いになるような、そんな作品を書いていきたいと思っています。
今後とも、よろしくお願いいたします。

<奨励賞>

「ルクトニア領百花繚乱円舞曲」 武州青嵐


【あらすじ】
長身ゆえ見合いも就職も断られ続けたアレクシアは、不審者に襲われる子どもを助けた。その子は先王の遺児・ジュリア。白い肌に金の長い髪、大きな碧い瞳、“低い”声――ジュリアの正体は、王位継承問題から命を狙われ生きてきた【女装王子】だった! 成長期の身長をアレクシアの長身でごまかすため、家庭教師として雇うという。「俺が一番にお前を見つけたんだからな。光栄に思えよ」自由奔放なジュリアに振り回されるアレクシアだが、次第に彼の【本当の姿】に惹かれていき……? 
問題だらけの女装王子にトキメキ必至!

【受賞コメント】
このたびは、奨励賞をいただき、本当にありがとうございます。
編集部の皆様、読者審査員の皆様。並びに、この選考に携わられた方々に厚くお礼申し上げます。
そして、カクヨムで拙作を応援して下さっている皆様。いつも本当にありがとうございます。書くことを続けてこられたのは、皆様の温かい応援や励まし、支援があったからだと思います。
これからも一層精進し、邁進していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

選評
【総評】

今回は新たに、小説投稿サイト「カクヨム」からの応募受付を開始し、例年と比べても応募作品の内容が多岐にわたるものとなった。最終選考に残った6作品は、それぞれ個性が強く、ジャンルにくくりきることができない伸び伸びとした力をもつ作品だった。一方で、エンタテインメント小説として、どこで読者を楽しませるのか、魅力的なキャラクターが物語を牽引できているか、という視点がやや弱かったようだ。受賞作品は、書き手の熱意が読み手に伝わってくることが特徴で、オリジナリティを模索して新しいものを創作したいという新人賞にふさわしい試みが評価されていると捉えている。

「雨謳う姫は黄昏を望む」

主人公のヒロインは「雨を降らせる」異能をもつ姫、そして、ヒーローは彼女を救い出そうとする近衛兵団の読書好きな騎士。童話のような設定と語り口で、二人の出会いから惹かれていく過程、キャラクターそのものや、心情を丁寧に描写している点に評価が集まった。だが、物語に起伏や緩急がなく、ストーリーの展開が予測できてしまったのが残念。「雨を降らせる」という異能自体が、ヒロインの主体的な能力ではないため、物語を動かす力に主人公が深く関わりきれなかった点にも起因するかと思われる。それを補うべく、ヒーローがヒロインを手に入れるために努力や苦労をして、ギリギリまで追い込まれるといった恋の障害を演出する等、もっとドラマチックなエピソードを作れているとよかった。今後は、物語の構成を意識し、読者の予想を裏切るような仕掛けを考えてみてほしい。

円環の姫巫女は銀狼に抱かれる

代々の能力を継承し、永遠を生きる姫巫女と、彼女の永遠を失わせることができるかもしれない国主との運命的な政略結婚から始まる和風ファンタジー。ヒロインの強さとヒーローの強さが真っ向からぶつかり合う展開に新鮮さと面白さを感じさせてくれた。話のテンポもよく展開も細かく丁寧に描写されており、ラストまできちんと読ませるリズムがある。一方で、世界観や設定が独りよがりで、難解に感じさせる部分が多く見られ、読者を置き去りにすることがあった。キャラクターは、強くたくましく生きている姿が印象的で、物語を牽引する力がある。一方で共感性が低く、ヒーローの好感度はあまり高くないところは、大きな改善点。作品のオリジナリティを追求して、王道・お約束を外れる前に、まずそこと向き合って、読者が今何を知り、何を期待しているのかを意識してほしい。

「音風症候群」

ひきこもりの青年とバンド、仲間との出会いを描く、爽やかな青春ストーリー。小説では表現が難しい「音楽」に加え、「男子の友情」「現代の高校生」と他とは一線を画す設定ながら、楽しく活き活きとキャラクターを描き切った筆力に評価が集まった。自分自身の価値とは、という10代・20 代に誰もが感じる悩みを捉え、軽快なキャラクターのかけあいと、主人公がバンドメンバーとの出逢いをきっかけに、外の世界に踏み出す過程が丁寧に描かれ、読後感のよい作品だった。ただ、一人称の文体で説明的な一人語りが多くなりがちな点に注意したい。また、主人公が音に敏感で、音を風として認識する、「音風」という設定が活かされず、前半と後半で期待した流れとずれていくような印象を受けた。特に、主人公と性格が正反対のカズに描写を割く中で、途中から作品のテーマはどこで、そのために誰が何をする話なのか、散漫になっていたので、作品の主軸をきちんと設定してほしい。

「魔術師候補生の就職活動」

魔術の世界に「就職活動」という、お仕事もの要素を組み込んできたアイディアと、キーワード設定の組み合わせにセンスが感じられる点、最後まで読ませる筆力の高さが評価された。主人公が常に不採用だったのは、ヒーローの仕業だったという仕掛けで、恋愛面の見せ方もうまかった。だが、全体が「就活」に寄ってしまい、「魔法使い」の設定が活かせていなかったため、ファンタジーとして世界観に深みが感じられなかった。また、「就活」にリアリティがある分、要領が良くないヒロインの描かれ方や、上手くいかない悲壮感・焦り・いらだちが物語にただよい、キャラクターの好感度を下げてしまったのが残念。設定したキーワードに対して興味を持ってくれる読者、その読者がどういった展開を必要とするのかを考え、自分の書きたいテーマへのアプローチを工夫していってほしい。

「きみをすくう物語」

雨の降らない世界を舞台に、涙を流すことで雨をもたらす、という神子の存在が国を動かすハイファンタジー。一人の少年が、世界を犠牲にしても友達を救いたいと願う物語。圧倒的なスケールと細かく考え抜かれた世界観、巧みな叙述描写により、読み応えのある作品に仕上げていた。物語全体に漂う雨の匂い、みずみずしさ、作品と文体の「雰囲気」の作り方は群を抜いていた。だが、途中から読者を置き去りにし、壮大なテーマを描くことが先行してしまった点は否めない。緻密なこだわりを感じる設定も、伝わりにくいとただ難解に感じられ、キャラクターへの共感につながりにくい。文章と演出で自分が何を見せたいのかを整理し、「読者を楽しくさせる物語」というエンタテインメント小説の本質、読者の目を強く意識してほしい。

「ルクトニア領百花繚乱円舞曲」

働く必要に迫られた令嬢をヒロインに、女装王子をヒーローに据えた西洋ファンタジー。ヒロインが家庭教師として教える姫が、実はオレ様の「女装男子」だったという変則的な設定ながら、コンプレックスから、共に過ごす中で互いに気持ちを変化させていく姿が恋愛面での演出として効果的で、キャラクターの好感度が高かった。カクヨム連載作品として、1話ごとの引きが意識されており、読ませたいシーンがとてもわかりやすく作れていた。だが、ひとつのストーリーとしては断片的で、前半と後半の進み方のバランスが悪い。全体の主軸がぶれていたり、展開の中だるみや飛びが見られたりする点が大きな改善点。また、世界観の作り込みが甘い点を見直し、文章や表現方法をわかりやすくし、ラストまで読ませる工夫をしてほしい。