角川ビーンズ小説大賞 歴代新人賞受賞作品紹介

第19回角川ビーンズ小説大賞

先日発表いたしました第19回角川ビーンズ小説大賞受賞者4名の受賞のコメントと、最終候補5作品の選評を公開いたします。
ご応募くださいました方々、選考にあたられた諸氏に改めて御礼申し上げます。

<優秀賞&読者賞>

「鏡の巫女と縁切り雀」 雨宮いろり


【あらすじ】
「式神の縁、お切りします」

大学一年生のひよりが、家の竹やぶで見つけたのは、自称式神の美青年・青磁だった。
彼は「かつて果たせなかった約束を果たす」と、ひよりを巻き込む形で“あやかし専門の縁切り屋”を営むことに。
縁切り屋には、赤べこの式神・猫又・水の神様・小狐といったあやかしがやってくる。
これまで見たこともなかったあやかしたちと交流する中で、彼らも願いや人間との思い出を持っていることを知るひより。
特に変哲のない学生生活を送っていた彼女にとって、縁切り屋は次第にやりがいのあるものになっていく。
しかし活動を続けるうちに、以前祓ったはずのあやかしがひよりを狙いはじめて……?

ハートフル現代あやかしファンタジーが開幕!


【受賞コメント】
この度は優秀賞と読者賞という素敵な賞を頂きまして、誠にありがとうございます。
読者審査員の皆様、編集部の皆様、選考に関わられた皆様、そしていつも感想を下さる方々に、厚く御礼申し上げます。
小さなころから物語が好きで、一冊の本を読み終えたあとは、いつも何か小さなおみやげを貰って帰るようなうれしさがありました。
今度は私がそれを渡す番だと思うと少し緊張しますが、この作品と共に励んで参ります。

<奨励賞>

「砂色パニック ~砂魔法師の卵たち~」 三浦まき


【あらすじ】
火・水・土・風の属性を持つ砂を操り、人々のために魔法を使う砂魔法師。
8歳のときに砂魔法の素養を認められたルーナは15歳になった今年、特進生として全寮制のウルビス学園に入学する。
心の支えは故郷に残してきた大切な仲間たちと、一緒に入学する兄のような存在のルカ。
新しい生活に胸をときめかせるルーナだけど、同級生たちは砂魔法の実力はピカイチでも性格はクセ者ぞろい。
しかも砂魔法の素養が高いルーナとルカの兄妹は、庶民が砂魔法師になることを良しとしない何者かに命を狙われて……!?
砂魔法師を目指すルーナの挑戦が今、始まる!

【受賞コメント】
このたびは奨励賞という素晴らしい賞をいただき、心よりお礼申し上げます。
これまで数多くの物語を書いてきましたが、文章に起こしただけでは登場人物に命は宿らず、
人の目に触れ印象や好意を持たれることで、初めて命を吹き込まれる気がしています。
そんな私にとって、創り上げた作品の出版のチャンスをいただけたことはこの上ない喜びです。
あらためて選考に携わった編集部の皆様、読者審査員の皆様、そしてこれから作品を読んでいただけるかもしれない読者様に、心より感謝いたします。

<奨励賞>

「千年王国の花」 久浪


【あらすじ】
一人の王の治世が千年も続いたとされる伝説の国『千年王国』。
その奇跡のような時代を築き上げた女王、睡蓮は原因不明のまま自害したと言われている。――かつての私のことだ。
二百年後に平民の少女・花鈴として生まれ変わった私は、平凡な一生を過ごすはずだった。
ところが、今度はなんと弟が王候補に選ばれてしまう。弟と会うため、王宮に乗り込む決意をする私の前に現れたのは千年間側近として側にいた男で……?
さらには前世で別れを告げられず仕舞いだった隣国の王とも再会してしまい!?
捨てたはずの過去と現在、時を超えた想いが交錯する転生ラブファンタジー!


【受賞コメント】
この度は奨励賞という素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。
選考に携わられた編集部の皆様、読者審査員の皆様に心からお礼申し上げます。
また、カクヨム経由で応募させていただいたということで、カクヨムにて作品を応援くださった皆様にも感謝いたします。
ありがとうございます。
まだまだ未熟な部分がありますので、皆様に面白いと思っていただける作品をお届けすることが叶うよう努めてまいります。よろしくお願いいたします。

<奨励賞>

「花姫は恋の花を咲かせる」 清水香苗


【あらすじ】
フロレラーラ王国の第一王女ルーティエは、幼馴染みの同盟国王子と幸せな結婚を迎えるはずだった。
結婚式の最中、突如国が攻められ、ルーティエは人質として敵国に嫁ぐことに。しかも相手は、不気味な仮面をつけた皇子・ユリア。憎むべき敵国に、一人連れてこられたルーティエは隙をみて復讐の機をうかがう! だが今まで知り得なかった自国の秘密や、ユリアの真っすぐな心根を知るうちに、ルーティエの心は揺れていき!? 相手の顔を知らない、ましてや好きになってはいけない……運命を背負う王女の、究極のラブロマンス!

【受賞コメント】
このたびは奨励賞という素晴らしい賞を賜り、厚く御礼申し上げます。
編集部の皆様、読者審査員の皆様を始め、選考に携わられたすべての皆様に心より感謝いたします。
初めて小説を書いたのは、十年以上も前のことです。
社会人になり、忙しさのため執筆から離れる時期もありました。
それでも、少しでも自分の想いを形にしたいと考え、亀の歩みながらも執筆を続けてきました。
今回ようやくたどり着けた場所は、ゴールではなくスタート地点だと考えております。
まだまだ未熟ではありますが、ほんのちょっとでも読んだ方の心に残るような作品をお届けできれば幸いです。
今後より一層努力し、邁進していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

選評
【総評】

今年もWEB応募窓口だけでなく、小説投稿サイト「カクヨム」「魔法のiらんど」より多数のご応募をいただき、昨年を超える応募総数となった。特に今年は流行を意識した作品以外にも、ジャンルの概念を超えたものも多く見受けられ、非常に多彩な内容となった。最終選考に残った5作品は、エンタテインメント小説として「読者が楽しめるか否か」「構成上必要か否か」といった視点が足りない面もあるにはあったが、書きたいものへの熱意と読者へ訴えかける魅力に溢れていた。その中でも受賞作品は、「王道」と「チャレンジ」を兼ね備え、新人賞らしくジャンルを切り拓いていこうという意欲を感じさせてくれた。

「鏡の巫女と縁切り雀」

現代日本を舞台に、大学生の主人公と式神の青年が「縁切り屋」を営む、あやかしファンタジー。キャラクターが繰り広げる日常とあやかしの世界観とのギャップなど、大変完成度が高く、頭ひとつ抜けている作品だった。 一冊として読み込ませる筆力の高さの反面、二人の物語がそれぞれで独立してしまい、成長していく中で互いの思いや要素を絡めて描ききれなかった面もある。そのために後半単調になっており、読者を最後まで引き付けられるよう構成を見直すことが課題となる。

「砂色パニック ~砂魔法師の卵たち~」

特別な砂を扱う「砂魔法師」を目指す主人公と、彼女を取り巻く仲間たちの青春ファンタジー。主人公が目的に向けて前向きに努力する姿と、成長過程の中で周囲と築かれていく関係性が大変印象的だった。 だがその分、学園という狭い舞台に要素を盛り込みすぎてしまい、結果として何を描きたかったのかが曖昧になっている。誰のための物語であるのか、読者は今誰を見ているのか、という視点を踏まえて構築すると大きく印象が変わるだろう。

「千年王国の花」

かつて千年もの間治めた国の、二百年後に転生したヒロインと、彼女を思い続けるヒーローの中華風ファンタジー。華やかな世界観に「転生」要素をうまく組み入れ、読み応えのある展開が高く評価された。 しかし設定の複雑さに気を取られ、展開に応じたキャラクターたちの心情変化に物足りなさを感じさせてしまったことは否めない。ドラマチックな展開だけではなく、あくまでもキャラクターたちの「生きた物語」であることを意識してみてほしい。

「花姫は恋の花を咲かせる」

幸せな結婚式の最中に侵略を受けた王女が、顔を隠した敵国の王子と結婚させられることから始まる王道ラブロマンス。メイン二人が互いに距離を縮めていく恋愛描写や、登場人物それぞれの物語が丁寧に描かれており、読ませたいポイントが明確だった。 逆にそれ以外では、設定が回収しきれておらず、先の展開が予想できてしまう弱さが出ていた。物語のメリハリと共に、自身の“オリジナリティ”となる部分を今一度見直し、取り組んでほしい。

「ナイトメア・アカデミア ~大学生活と銀灰の氷帝~」

悪夢を見せることで人に恐怖を与えるモンスターたちの学園。自身の正体にコンプレックスを持つ少女と、カリスマ性を持つヒーローとの出会い、成長が巧みに描かれていた。特殊な設定ながら、学園物として仲間たちとの交流や、多彩なキャラクターも魅力的。 その一方で、後半に進むにつれて物語の主題がぼやけてしまったのが惜しい。書きたい主題と、その主題を求める読者層にとって必要なものは何か。キャラクターを成長させるポイントは何かを、整理してもらいたい。