角川ビーンズ小説大賞 歴代新人賞受賞作品紹介

第20回角川ビーンズ小説大賞

先日発表いたしました第20回角川ビーンズ小説大賞受賞者4名の受賞のコメントと、最終候補7作品の選評を公開いたします。
ご応募くださいました方々、選考にあたられた諸氏に改めて御礼申し上げます。


<優秀賞&読者賞>
「不遇の花詠み仙女は後宮の花となる」 松藤かるり
【あらすじ】
髙の山奥にあるとある里には、華仙術をかつて使用していた一族が隠れて暮らしていた。その一族の中で華仙術に秀でた者の証『花痣』を持ち生まれた娘、華仙紅妍。花痣があるために姉や一族から虐げられる生活を送っていたが、そこに髙の第四皇子、秀礼が強力な華仙術の使い手を探して里にやってきた。紅妍が秀礼に連れて行かれたのは、死してなお生に縋る鬼霊が巣くう宮城。秀礼は紅妍に、帝を苦しめる禍を解き放つことを命令する。
紅妍は調査のため皇帝の最後の妃となり、華仙術を武器に謎を解き明かそうと奮闘する。そして徐々に秀礼とも仲を深めていき――!?
虐げられていた少女の大逆転後宮ファンタジー!

【受賞コメント】
このたびは優秀賞と読者賞という素敵な賞を賜り、誠にありがとうございます。
読者審査員の皆様、編集部の皆様、賞に携わるすべての方に心より御礼申し上げます。
そしてカクヨムで応援してくださった方々、いつも支えてくれる友人にも感謝を。その励ましが原動力となっています。ありがとうございます。
自ら書いた物語が本棚に並ぶ日を夢見ていました。その夢に大きく近づけたことをとても嬉しく思います。
皆様の心の本棚に並べて頂ける物語を作れるよう、より一層精進して参ります。


<奨励賞>
「水難聖女のサバイバル ~亜人陛下にめざとく命を狙われています~」 猪谷かなめ
【あらすじ】
サザナ封鎖国の聖女として国を脅かす《瘴気》の浄化に励むフェニシアは、実は転生者。病弱だった前世とは違い、健康な身体を駆使して日々お役目に全力を注ぐけれど、簒奪王の悪名高い亜人の若き国王・グラシカはそれが不満なようで……「聖女様、そろそろ俗人に戻ってはいかがです?」引退を迫られ天国への移住を勧められ……って私、まだ逝きませんから!
グラシカを警戒しまくるフェニシアだけど、同行した浄化の旅の道中、彼が「簒奪王」になった本当の理由を知る。秘密を共有し、2人の距離が近づいたと思ったその時、フェニシアの聖女の力に目をつけた帝国の罠が迫ってきて!?
亜人陛下と転生聖女、凸凹コンビの救国ストーリー!

【受賞コメント】
この度は奨励賞という素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。選考に携わられた編集部の皆様、読者審査員の皆様に心より感謝いたします。
小説は私の生きがいです。「この二人は最強コンビだ!」と夢中で書き上げた拙作が認めていただけて、憧れたプロ作家のスタート地点に立たせていただけて、本当に嬉しく思います。
これからたくさん楽しい物語をお届けできるよう精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


<奨励賞>
「貢がれ姫と双月の白狼王」 惺月いづみ
【あらすじ】
自らが王女であると知らず、森で狩人として暮らすニーナ。十五歳になった彼女を迎えにきたのは、おとぎ話のような獣耳と尻尾をもつ獣人の国の使者だった。彼らの目的は、特別な力を与えると言われる"贄姫"ニーナを"白狼王"ヴォルガに生け贄として捧げること。――冗談じゃない! 絶対生き延びて幸せになってやる!持ち前の身体能力を活かして度々王宮から逃亡を図るニーナ。けれど、いつも惜しいところでヴォルガに捕まってしまう。そんなある時、冷酷非道と思っていたヴォルガが"贄姫"を求めるのは妹を救いたいからと知る。彼の真摯な想いに触れたニーナはある奇策をヴォルガに提案し……?
異なる種族の二人が惹かれ合い、運命を打ち破るドラマチックファンタジー! 

【受賞コメント】
このたびは奨励賞という素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございます。
読者審査員の皆様、編集部の皆様、選考に関わっていただいた皆様、いつも支えてくれた家族や親友達に、心からの御礼を申し上げます。
子供の頃、物語を書くことの楽しさに夢中になり、ずっと好きで続けてきたことが、今の自分を支える礎になりました。
〝天才は努力する者に勝てず、努力する者は楽しむ者に勝てない〟。
初心を大切に、これからも書くことを心から楽しんでいきたいです。


<奨励賞>
「華月堂物語〜後宮蔵書室は閑職なはずでは!?」 真琴
【あらすじ】
「父さま、ごめんなさい。最初で最後の娘の嘘をどうか許してね」
白花音、16歳。近所の娘たちが次々と嫁ぎ先を決めるなか、彼女にとっての生きがいは唯一、「本を読むこと」。縁談を結ぼうと必死の父に「後宮女官として花嫁修業をする」と嘘をつき、応募したのは後宮の蔵書室・華月堂での官吏の仕事。ここで、本に囲まれた理想の生活を送るのだ、と意気込んだのも束の間、鬼上司に顎で使われ、よその女官にバカにされ、挙句、目をつけられたのは双子の皇子——!?
しかし、全ては本のため! 夢に向かって文字通り奔走する、新米官吏・白花音のお仕事奮闘記!

【受賞コメント】
この度は奨励賞という輝かしい賞をいただき、誠にありがとうございます。
選考に携わってくださったすべての方々に厚く御礼申し上げます。また、カクヨム上でいつも応援してくださる読者の方々に深く感謝申し上げます。
物語には、チカラがある。
私はそう信じております。
私の書いた物語が、ほんの少しでもどこかで誰かのチカラになれれば、こんなに嬉しいことはありません。
これからもそのような思いで創作活動に精進して参ります。どうぞよろしくお願いします。


選評
【総評】
記念すべき第20回となる今年も非常に多種多様な作品のご応募をいただいた。
最終選考に残った7作品はどれも完成度が高く、作品の中で「この一点は貫き通す」という強い意欲に溢れていた。
近年様々な流行の形式が生まれては変化していく中で、新しいテーマに果敢に挑む作品も多かったが、その変化に柔軟に対応することと「キャラクター性」と「オリジナリティ」のバランスを取ることには、まだまだ難しさを感じさせられた。
受賞作はその中でも、読者に期待感を持たせようと作品に取り組んでいる意識が評価されていると捉えている。

「不遇の花詠み仙女は後宮の花となる」
「花仙術」の才を持ちながらも虐げられてきた主人公が皇子に見出され、闇深い後宮で人の心と謎を解き明かす中華ファンタジー。
舞台設定と「花の記憶を読み解く」という仙術の用い方が絶妙で、すべてが繋がっていく構成の巧みさ、完成度の高さは見事だった。
しかし大前提として主人公たちの感情の機微、成長に実感を持たせきれていない点が惜しまれる。
誰のための物語なのか、という面を意識し、読み手を共感させる物語へと昇華させることが課題となる。

「水難聖女のサバイバル~亜人陛下にめざとく命を狙われています~」
病弱だった前世を持つ転生聖女と、簒奪王と呼ばれる若き亜人の王との救国ラブコメディ。
会話のテンポがよく、ボケとツッコミとしてのキャラクター配置やそこから生まれるすれ違いといった、キャラクターが物語を牽引していく力強さを感じた。
それ故にキャラクターのすべてを詰め込もうとした結果、設定が置き去りになってしまい、物語としての軸を崩してしまっている。
読者の顔をイメージしながらテーマ、伝えたいことを明確にしたうえで、作品のメリハリを意識してみてほしい。

「華月堂物語~後宮蔵書室は閑職なはずでは!?~」
縁談から逃げるため、そして大好きな本を読み続けるために、官吏として後宮の蔵書室で働くことにした主人公の成長ストーリー。
設定やキャラクターに個性があり、特に二人の皇子にはそれぞれの魅力と存在感があった。
物語が進む中で、情報が散らばりすぎてしまい伏線が伏線として機能しきれていない点にはやや難が見られた。
読後感の消化不良を起こしてしまっているため、読み進めるうえでの爽快感と起承転結を整理し直してもらいたい。

「貢がれ姫と双月の白狼王」
生け贄とされた王女と、捧げられた獣人の“白狼王”との恋愛ファンタジー。
「食う者」と「食われる者」という関係が明確ながら、主人公が森で培った技術を元に力強く運命を変えようとしていく姿が魅力的だった。
だがその解決策や設定に甘さを残しており、物語としてはもう一歩物足りない印象。
「食べられたくない」という意志からさらに成長し、主人公がどうやってその心の芯に至るのか。
表面的ではない生きたキャラクターはどんなところから生まれるか、取り組むことに期待したい。

「星鳴らす姫の歌う大地で」
「聖女誘拐」の罪で追われる主人公と、彼女を守り支える幼馴染との異世界ファンタジー。
壮大な世界観と設定に裏打ちされた物語の厚みを感じさせる。
その一方で人物同士の関係性や絡み合う恋愛模様で、しばしば後から知らされる事実が足かせとなり、キャラクターへの感情が乗り切れない結果となってしまった。
よく練り込まれたファンタジーだからこそ、読者目線でのわかりやすさ、親しみやすさを意識して物語を組み立ててほしい。

「邪悪なる魔女と三毛猫」
邪悪な魔女の末裔でありながら善き魔女を騙る主人公と、彼女の元にやってきた騎士とのラブロマンス。
嘘が状況変化の引き金となり、共に暮らす中で互いへの印象が徐々に変化していく丁寧な過程に引き込まれた。
山場も用意されている反面、設定や世界観に比べて小規模で終わってしまい心許ない読後感となっている。
提示した設定に対して読者の期待はどこに寄せられるか、視野を広げてみることで飛躍的な成長が期待できる。

「処刑されることが仮確定している悪役令嬢に転生してしまったので、フラグ回避のため名探偵を演じます」
前世の記憶を思い出した悪役令嬢が、処刑フラグとなる出来事を名探偵になって解決していく。
破滅回避方法としては非常に明確で、キャラクターたちも自立しておりライトに読み進めることができる。
しかしながら、読者に感じさせるべき物語の奥行き、事件の核となるべきポイントが抜け落ちており、作品へと引き込む力が弱い。
読者に先を期待させるだけの“オリジナリティ”を作り込んでいけば大きく印象が変わるだろう。